価格の合意は、ゴールではなく折り返し地点です。FIT認定を買い手に引き継ぐまでに何が動くのかを、資源エネルギー庁の資料をもとに順番に並べました。
値段が決まったのに、まだ発電所は動かない
「買い手が見つかって、金額もまとまりました。あとは振り込みを待つだけですよね?」
売却のご相談で、この段階になってからいちばん多くいただく質問です。実際には、ここから先にもうひとつ作業が残っています。FIT(固定価格買取制度)の事業計画認定を、売り手から買い手へ移す手続きです。
これが終わらないと、買い手は自分の名義で売電できません。手続きが長引けば、その間の売電収入をどちらが受け取るのかという整理も必要になります。金額の話がまとまったあとで慌てないよう、何が起きるのかを先に見ておきます。
なお、いくらで売れるのかという価格の側はうちの発電所、いくらで売れる?──中古太陽光の査定額を決める5つの要素で、売るか・たたむかの費用比較は草刈りがしんどくなった発電所を、たたむか、売るかで扱っています。この記事は、その「売ると決めたあと」の話です。
名義変更の正体は「変更認定申請」──届出ではありません
認定を受けた事業計画を変更するとき、その内容に応じて①変更認定申請 ②事前変更届出 ③事後変更届出 ④卒FIT事前変更届出 のいずれかを行うことになっています。
このうち事業譲渡(生前贈与を含む)は「変更認定申請」にあたります。あわせて事後変更届出も必要です。届出だけで済むものではありません。
申請するのは、買い手です
資源エネルギー庁の整理表には、事業譲渡等の場合「譲受人が変更を申請・届出する必要があります」と明記されています。つまり手続きの主体は買い手側です。
ただし、必要な書類の多くは売り手にしか出せません。売り手は「相手が申請してくれるから待っていればいい」立場ではなく、書類をそろえて渡す役回りだとお考えください。ここを誤解していると、契約後に一気に慌ただしくなります。
そろえる書類(事業譲渡の場合)
- 譲渡契約書 または 譲渡証明書(譲渡に停止条件が付いている場合は、その成就が確認できる資料も)
- 法人なら双方の履歴事項全部証明書/個人なら双方の住民票の写し、住民票記載事項証明書、戸籍謄(抄)本のいずれか
- 契約当事者双方の印鑑証明書
- 土地の取得を証する書類等(土地登記簿謄本、不動産売買契約書、賃貸借契約書 等)
- 事業実施体制図
- 関係法令手続状況報告書
細かいようですが、実務でつまずくのはたいてい次の2点です。
公的機関が発行する書類には期限があります。被相続人の戸除籍謄本を除き、申請(届出)日より3か月前から当該申請日までに発行されたものに限られます。早く準備しすぎても、手続きが延びれば取り直しになります。
登記簿謄本は「履歴事項全部証明書」でなければ通りません。登記事項要約書や、登記情報提供サービスからダウンロードしたデータの写しは、法的証明力が担保されないため認められないとされています。手元にあるもので足りるつもりでいると、ここで止まります。
相続の場合は、ルートが違います
同じ「事業者が変わる」でも、相続による場合は事後変更届出で、変更認定申請ではありません。必要書類も変わります。
- 被相続人(亡くなられた方)の戸除籍謄本(附票を含む。附票がない場合は住民票の除票でも可)
- 法定相続人全員の戸籍謄本 ※①②の代用として、法務局発行の法定相続情報でも可
- 法定相続人全員の印鑑証明書
- 遺産分割協議書 または 相続人全員の同意書
- 土地の取得を証する書類等
相続してから売却する場合は、この届出を済ませたうえで、あらためて譲渡の変更認定申請を行う流れになります。二段構えになるぶん、時間の見積もりは長めに取ってください。
自動で移るもの──外部積立ての廃棄等費用積立金
10kW以上の事業用太陽光には、将来の解体・撤去に備えて廃棄等費用を積み立てる義務があります。原則は外部積立てで、売電収入から差し引かれる形で電力広域的運営推進機関に積み立てられていきます。
この積立金は、発電所を売ったらどうなるのか。資源エネルギー庁の廃棄等費用積立ガイドラインは、こう書いています。
「外部積立てを行っていた認定事業者が、認定事業者としての地位を譲渡する場合、積立金を取り戻せる地位が法律上自動的に移転する(再エネ特措法第15条の15参照)。」
つまり外部積立てであれば、積立金を取り戻す権利は手続きなしで買い手へ移ります。売り手の手元に返ってくるものではありません。
これは損な話に見えるかもしれませんが、見方を変えると積立済みの金額はそのまま買い手にとっての価値です。将来の撤去費用のうち、すでに手当てが済んでいる部分だからです。運転開始から年数が経っているほど積立残高は厚くなります。売却の交渉では、この残高を材料として卓の上に載せることができます。
契約で決めておくもの──内部積立ての場合
一定の要件を満たす事業者は、外部積立てではなく内部積立て(自社で積み立てる方式)の認定を受けている場合があります。こちらは扱いが変わります。
同じガイドラインは、内部積立ての譲渡についてこう述べています。
「内部積立てにより廃棄等費用を積み立てていた認定事業者が、認定事業を譲渡する場合、内部留保等により積み立てられた廃棄等費用をどのように扱うのかなどについて、認定事業の譲渡契約等の中で合意しておくことが望ましい。」
外部積立てのように法律で自動的に移るわけではない、ということです。誰がいくら持ち、誰が将来の撤去費用を負うのか。売買契約の中で書いておかないと、あとから揉める余地が残ります。
もうひとつ。買い手が内部積立ての認定を受けない場合は、外部積立てに移行します。買い手にとっては、引き継いだ翌月から売電収入が積立分だけ減るということです。事前に共有しておかないと、引渡し後に「聞いていない」という話になります。
売り手としては、まず自分の発電所がどちらの方式なのかを確認するところからです。特に手続きをした覚えがなければ外部積立てですが、思い当たる節がある場合は認定情報を確認してください。
見落とされやすい2つ
太陽光パネルは「建物附属設備」ではありません
整理表の備考に、はっきりと書かれています。太陽光パネルは建物附属設備として認められているものではないため、事業譲渡の際は建物と別に明示することが必要です。
建物と一緒に譲渡するつもりで契約書を作ると、パネルが譲渡対象に含まれていないと読まれてしまうことがあります。契約書を作る段階で確認しておく点です。
電力会社との契約は、別に手続きが要ります
名義変更にともなって電力会社との特定契約(売電契約)の変更が必要になる場合、変更認定通知書の写し、または事前/事後変更届出の受理日が分かるものを電力会社へ提出する必要があります。
経済産業省の認定が下りたら自動的に売電の名義も変わる、というものではありません。認定手続きと電力会社の手続きは、別々に動きます。
売り手が、先にやっておけること
買い手が決まる前でも、手を付けられるものがあります。ここが済んでいる発電所は、話が決まってからの進みが目に見えて速くなります。
- 設備IDと認定情報を手元に出しておく(事業計画認定の内容・FIT単価・認定日・調達期間の残り)
- 土地の権利関係を確認する。所有なら履歴事項全部証明書、賃借なら賃貸借契約書。賃借の場合は、地主の承諾が要るかどうかを契約書で確認しておく
- 積立ての方式(外部か内部か)と、積立済みの残高を確認する
- 売電実績を月別に3年分ほどそろえる(買い手が最初に見る数字です)
- O&M契約・保険・保守履歴を並べる。引き継ぐのか、解約するのかを決めておく
- 印鑑証明書や住民票は、話が固まってから取る。3か月ルールがあるため、先取りすると無駄になります
構造や架台まわりの書類も同様です。2026年からは10kW以上の架台について第三者による確認が求められるようになりました(架台の第三者確認義務化で中古発電所はどう変わる?)。関係する書類が手元にあるなら、まとめておくと交渉が早く進みます。
どこから先は、専門家にお願いしてください
この記事で扱ったのは、公表されている手続きの地図です。実際の申請には原則として申請ごとに委任状が必要で、代行を頼むこともできます。
一方で、相続税や譲渡所得の扱い、遺産分割の進め方、登記の要否といった個別の判断は、税理士・司法書士・弁護士など、それぞれの専門家にご相談ください。金額の大きい取引ですので、一般論で押し切らないことをおすすめします。私たちも、そこは踏み込みません。
おわりに
発電所の売買は、価格が決まってからのほうが長いことがあります。ただ、動くもののほとんどは事前に分かっているものです。自動で移るもの(外部積立ての積立金)と、契約で決めておくもの(内部積立て・O&M・保険・土地)を分けて考えれば、準備の順番は見えてきます。
ソラコミュでは、経済産業省の事業計画認定の設備IDから設備情報を読み込んで、価格の目安をお出ししています。売ると決める前の「いくらくらいなのか」の段階からご利用いただけます。登録は無料で、いまβ版として運用しています。
手続きの順番や、何から手を付ければいいのかが分からないときは、お困り相談からお声がけください。一件ずつ、一緒に整理していきます。
