規制は「換金ルート」を断ちにきた。では、発電所そのものは誰が守るのか
読了時間: 約7分
2026年6月1日、金属盗対策法(盗難特定金属製物品の処分の防止等に関する法律)のうち、これまで施行が見送られていた「特定金属くず買受業」の届出制と本人確認義務が、ついに全面施行されました(出典:契約ウォッチ 2026年6月)。銅線ケーブルの盗難に長く悩まされてきた太陽光発電事業者にとって、これは一つの節目です。
ただ、ここで立ち止まって考えていただきたいことがあります。この新法は「あなたの発電所」を直接守ってくれる法律ではない、という点です。規制の矛先は、盗品を買い取る金属くず業者に向いています。つまり国が選んだのは、現場に柵を立てることではなく、盗んだ銅の「出口」をふさぐことでした。
この記事では、新法が何を規制し、何を規制しなかったのかを構造的に読み解いたうえで、オーナーが2026年の今、防犯と保険のどこを見直すべきかを整理します。
今回のポイント
- 新法は「買い手」を規制する法律。2026年6月1日から特定金属くず買受業の届出制と本人確認が義務化されたが、対象はスクラップ業者であり、発電所への直接の防犯義務ではありません。
- 盗難件数は減ったが、保険は元に戻らない。2025年の太陽光ケーブル窃盗は前年比約45%減の3,856件まで減少した一方、保険料の上昇と免責額の高額化(100万円以上)はむしろ定着しつつあります。
- オーナーが取るべき行動は「自衛」と「保険の再設計」の二本立て。法整備に過度に依存せず、自分の発電所のリスクプロファイルを前提に対策を組み直す段階に入っています。
「2万件」という数字が映していた、犯罪のインフラ化
まず、ことの規模を確認しておきます。警察庁が統計を取り始めた2020年以降、金属盗の認知件数は増加を続け、2023年には約1万6,276件、いわゆる「2万件規模」と語られる水準に達しました(出典:メガソーラービジネス(日経BP))。このうち太陽光発電所の金属ケーブル窃盗が占める割合は、2023年で32.9%、2024年6月末時点では38.7%まで上昇しています(前掲メガソーラービジネス)。金属盗のおよそ3〜4件に1件以上が、太陽光発電所を狙ったものだったわけです。
被害額の大きさも見過ごせません。2023年に発生した金属盗の被害総額は約132億8,700万円。そのうち金属ケーブルが約109億8,100万円と全体の約8割を占め、材質別では銅が約7割でした(出典:警察庁「金属盗対策に関する検討会」資料)。
背景にあるのは、ご存知のとおり銅価格の高騰です。国内の銅建値は2020年頃には1トンあたり約70万円前後でしたが、2024年1月には約130万円まで上昇しました(出典:グッド・エナジー)。脱炭素に伴う電力インフラやEV向けの需要拡大を背景に、2026年も1トンあたり150万円〜200万円超で推移する可能性が指摘されています(前掲グッド・エナジー)。盗む側にとって、銅線ケーブルは「換金しやすく、単価の高い資産」であり続けているのです。
ここで重要なのは、これが単発の出来心ではなく、組織化された犯罪になっていたという事実です。検挙人員に占める外国人の割合は2024年6月末時点で65.0%に達し(前掲メガソーラービジネス)、現地の下見から複数日にわたる侵入、特定業者への売却まで、一連の「ビジネス」として成立していました。だからこそ国は、個別の発電所を守る発想ではなく、この換金インフラそのものを断つ方向に動いたのです。
「破」——新法が断ったのは現場ではなく「出口」だった
ここが今回の最大の論点です。2026年6月1日に全面施行された金属盗対策法の中核は、太陽光発電所への防犯義務ではありません。銅などの「特定金属くず」を買い取る事業者に対し、都道府県公安委員会への届出を義務づけ、買受け時の本人確認と取引記録の作成・保存、盗品の疑いがある際の警察官への申告を求めるものです(出典:地方自治研究機構)。あわせて、ケーブルカッターなど犯行に使われやすい工具を正当な理由なく隠して持ち歩くことも禁止されました(前掲地方自治研究機構)。
施行のスケジュールを時系列で並べると、この法律が「段階的に網を絞ってきた」ことが見えてきます。2025年6月20日に公布、同年9月に犯行用具規制などが先行施行され、10月1日には古物営業法施行規則の改正で電線やエアコン室外機などが1万円未満でも本人確認義務の対象に拡大されました(出典:DNP)。そして2026年6月1日、買受業の届出制が施行され、規制が完成形に近づいたわけです。届出を怠って営業を続けた場合は、6か月以下の拘禁刑または100万円以下の罰金が科されます(出典:三澤行政書士事務所)。
従来の「金属くず商」規制は自治体ごとの条例にとどまり、地域によって抜け穴がありました。今回の法律は全国一律で適用され、罰則も大幅に強化されています(出典:古物商許可ナビ)。盗品の換金が難しくなれば、盗む経済的動機そのものが薄れる——これが立法の狙いです。
実際、一定の効果は出ています。2025年の太陽光発電所における金属ケーブル窃盗の認知件数は、前年比約45%減の3,856件まで減少しました(出典:SOLAR JOURNAL)。取り締まりの強化と、事業者自身の防犯意識の高まりが重なった成果といえます。
しかし、しかしです。法律が「出口」を絞っても、発電所の「入口」が無防備であることは変わりません。2026年4月には、岐阜・愛知・三重・滋賀の4県で発電所26か所から銅線ケーブルを盗み、被害総額約1億4,000万円に及んだグループが摘発されています(前掲SOLAR JOURNAL)。換金が難しくなった分、犯行が巧妙化・広域化する兆しもあります。新法は犯罪のコストを上げましたが、ゼロにしたわけではないのです。
「急」——本当に元に戻らないのは「保険」のほうである
ここで、多くのオーナーが見落としがちな本質的な変化を指摘します。盗難件数が減っても、保険は以前の状態に戻っていない、という点です。むしろ「盗難件数が減った=安心」という認識こそが、最も危うい誤解かもしれません。
日本損害保険協会の調査によれば、盗難に対して支払われた保険金額は、2022年度には2017年度比で約20倍に膨らみました(出典:ITmedia スマートジャパン)。保険会社にとって、太陽光発電設備の盗難は完全に「採算の合わないリスク」になってしまったわけです。その結果として何が起きているか。保険料の上昇、そして免責額(自己負担)の高額化です。免責が100万円以上に設定され、実質的に保険が機能しないケースも増えています(出典:タイナビ発電所)。
この構造変化が厄介なのは、件数の増減とは別の論理で動いている点です。犯罪統計は2025年に改善へ向かいましたが、保険の引き受け条件は一度厳しくなると簡単には緩みません。保険会社は過去の損害率と将来の不確実性で判断するため、「去年盗難が減ったから来年は保険料を下げます」とはならないのです。つまり、防犯対策で件数を抑えることと、保険コストの負担を軽くすることは、もはや直結しなくなっています。
被害に遭った場合の実損も、保険金だけでは測れません。ある事業者は、警察への届け出から保険手続き、ケーブルの手配・復旧工事を経て運転再開まで約5か月を要したと証言しています(出典:SOLAR JOURNAL)。別の運営事業者の物件では、復旧まで約半年を要し、その間の売電収入はすべて停止しました(前掲タイナビ発電所)。たとえ保険で機器代が補償されても、止まっていた半年分の売電収入と事務負担は戻ってこないのです。
ここに、新法施行が突きつける逆説があります。法律が換金ルートを断ち、犯罪統計が改善に向かうほど、「保険でカバーすればいい」という発想は通用しにくくなる。なぜなら、保険はもう以前のように頼れる存在ではなくなったからです。守りの主体は、国の規制でも保険会社でもなく、オーナー自身に戻ってきています。
オーナーが今すぐ見直すべき3つのアクション
では、具体的に何をすべきか。発電所の規模や立地によって優先順位は変わりますが、共通する論点を3つに整理します。
- 物理的な防犯と「狙われない見た目」の両立。 センサーライト、防犯カメラ、フェンス強化といった物理対策は基本ですが、それと同じくらい重要なのが「メンテナンスされている発電所」に見せることです。雑草が生い茂り、人の出入りがない発電所は、犯行が発覚しにくいと見なされ標的になりやすい(出典:ソルセル)。定期的なO&Mは、発電効率の維持だけでなく防犯そのものに直結します。さらに、銅の約6分の1の単価しかないアルミニウムケーブルへの交換と、その旨を周知する看板設置も、盗む動機を削ぐ有効策です。金属盗の材質別被害は銅が51.8%に対しアルミは3.2%にとどまっており(前掲SOLAR JOURNAL)、「割に合わない発電所」だと示すこと自体が抑止力になります。
- 保険契約の「中身」を契約書ベースで再確認する。 加入しているのが盗難を対象にした補償なのか、免責額はいくらか、復旧期間中の売電収入(休業損害・利益補償)はカバーされるのか——この3点を契約書で確認してください。「保険に入っているから大丈夫」という思い込みが、いざという時に最も裏切られます。免責が高額化している今、機器補償だけでなく、運転停止期間の逸失利益まで含めて設計し直す必要があります。
- 取引先・売却を見据えるなら「盗難履歴」と対策実績を記録化する。 セカンダリー市場で発電所を売却する場合でも、O&Mパートナーを選定する場合でも、防犯対策の実績と盗難履歴は、これからますます査定や引き受け条件を左右します。どんな対策をいつ施したかを記録に残しておくことは、資産価値の防衛そのものです。
まとめ
今回の新法全面施行が示しているのは、国の規制が「犯罪の出口」を着実に塞ぎにきた、という事実です。これは歓迎すべき進展で、現に盗難件数は減少へ向かっています。
ただ、3つのポイントを改めて押さえておきたいと思います。第一に、新法はスクラップ業者を規制する法律であり、発電所の入口を守る義務ではないこと。第二に、犯罪が減っても保険の引き受け条件は元に戻らず、むしろ高免責が定着しつつあること。そして第三に、だからこそ守りの主体はオーナー自身に戻ってきているということです。
「件数が減った」という安心と、「保険があるから」という安心。この二つの安心こそ、2026年の今、最も点検が必要な前提なのかもしれません。あなたの発電所の防犯と保険は、新法が完成した今の現実に合わせて設計し直されているでしょうか。
参考資料
- 契約ウォッチ「【2026年6月等施行】金属盗対策法とは?」(2026年3月)
- SOLAR JOURNAL「明日は我が身の〝ケーブル盗難〟 金属盗対策法施行後も警戒は不可欠」(2026年5月)
- 三澤行政書士事務所「金属スクラップ買取の規制強化!令和8年6月施行の新法」(2026年5月)
- メガソーラービジネス(日経BP)「金属窃盗の3割超が太陽光、警察庁が対策検討会で公表」
- ITmedia スマートジャパン「太陽光発電のケーブル盗難問題は新フェーズに」(2025年11月)
- タイナビ発電所「太陽光発電所ケーブル盗難対策|保険だけでは不十分?」(2026年3月)
- グッド・エナジー「太陽光盗難対策の全貌|2026年最新の手口・新法・防犯策を解説」(2026年2月)
- 警察庁「第1回 金属盗対策に関する検討会 資料」
- SOLAR JOURNAL「太陽光発電所ケーブル盗難が昨対比1.5倍に急増!」(2024年12月)
- ソルセル「太陽光発電所の盗難被害が急増している理由はケーブル!防犯対策解説【2026年】」(2026年4月)
※この記事はWriters-hub様のご協力により生成AIでリサーチ、生成した記事を元に編集しました。
記事内容の詳細については参考資料をご覧ください。